プレス情報
2012年01月01日 中建日報
座談会 中国地方のコンクリート構造物維持管理の現状と課題
技術者育成しレベルアップを新しい技術導入し品質向上も
出席者
<発注者代表>中国地方整備局道路部道路保全企画官 川端 誠
<学識者代表>広島大学名誉教授 広島県コンクリート診断士会 会長 米倉 亜州夫
<施工者代表>コンクリートメンテナンス協会 会長 徳納 武使
<進行役・設計者代表>広島県コンクリート診断士会 副会長 鈴木 智郎
=順不同(敬称略)
戦後から高度経済成長期(以後、高度成長期)にかけて大量に生み出され、我々の生活や経済活動を支えてきたコンクリート構造物は今後急速に老朽化が進み、これらを効率的に維持管理・活用していくことは管理者やコンクリート技術者にとって最大の課題となっている。そこで本紙では、新春企画として「中国地方におけるコンクリート構造物維持管理の現状と課題」をテーマとした座談会を開催。発注者・学識者・施工者・設計者それぞれの立場から過去の歴史を踏まえた経緯や問題点、その打開案や様々な新技術に至るまで、大いに語ってもらった。
絹井―本日はお忙しい中、新春座談会にご出席下さいましてありがとうございます。ご存知のとおり、コンクリート構造物は我が国の社会資本として重要な役割を担っていますが、塩害や中性化による劣化や老朽化は深刻な社会問題となっており、これらを計画的に補修・保全していくことは重要な課題といえます。そこで、本日は各分野の専門家の方々にご出席いただきました。ぜひ忌憚のない意見交換をいただき、最後には明るい展望を見出していただければと思います。
鈴木―それでは、色々と現状や問題点等を挙げていただきながら、展望を考えていきます。まず中国地方整備局道路部道路保全企画官の川端さんに中国地方におけるコンクリート構造物、特に道路構造物の現状について伺います。
川端―まず、道路構造物の役割について高度成長期以降の推移を見ながら口火を切らせていただくと、昭和35年から50年までの高度成長期、物流の指標となる走行台キロの伸びは、昭和35年に200億トン・キロだったものが15年間で6・5倍の1300億トン・キロになった。年間の伸び率に換算すると14%と驚異的な数字で、高度成長期にいかに爆発的なエネルギーで構造物が作られてきたかがお解かりいただけると思う。平成20年までの47年間で見ても17倍の大きな伸びだ。同様にトラックの保有台数を見ると、昭和35年に130万台であったものが50年には740万台に急増し、平成5年からは25tトラックが走行可能になるなど車両が大型化して、疲労損傷という点で道路構造物は大きなダメージを受けている。
集中的な投資が行われたということは、裏を返せば今後これらの橋梁にたくさんの維持修繕費が必要になるということだが、中国整備局が管理する橋梁のうち高度成長期に作られた橋梁は全体の4割強にあたる1350橋あり、20年後には管内の橋梁の約6割が建設から50年以上経過したものとなる。トンネルについても同様に20年後には全体の49%が50年以上を経過したものとなる。
一方で公共投資の推移をみると、23年度は補正含めて6・2兆円、ピーク時の平成10年から比較すると、40%程度の投資額。また、国土交通白書の21年版では、維持管理更新費は伸び続けて現在50%となっており、2037年にはこれが新規投資を行えない額に達し、その後は維持管理予算すら賄えない状況になってしまうことが試算されている。
そのような状況の中、我々が行っているコンクリート構造物の点検だが、平成16年に予防保全の考え方が見直され、点検頻度を10年に1度から5年に1度としたほか、遠方目視の不可、評価体系の細分化による対策区分判定の導入など点検の質の向上に努めている。
22年度末現在、約11%あるC判定以上の未補修橋梁を早期に補修するべく取り組んでいるところ。点検結果を見ると、損傷の原因は疲労・塩害・アルカリ骨材反応のいわゆる三大損傷が半数を占め、塩害地域については20年経過以降に一気に損傷の割合が増えており、コンクリート橋の部位では主桁床版、下部工、支承で多く発生している。
鈴木―高度成長期に作られた構造物の老朽化が深刻な問題となっており、今後予算面でも厳しくなるというお話でした。また、点検制度も高品質化を図っておられる中、3大損傷が非常に多いということでした。それでは、コンクリートの置かれている損傷状況について、長年広島大学および広島工業大学でご指導され、昨年7月に発足した広島県コンクリート診断士会では会長を務められている米倉さんに中国地方の状況をご説明いただきます。
米倉―高度成長期はいわゆる生コンやポンプ圧送の登場で大量施工が可能となった時代で、建設ブームであったため、他の地方に比べて大きな河川の少ない中国地方では河川産骨材はあっという間に枯渇した。そこで、瀬戸内海の海砂を使うことになったが、洗って使わなくてはならない海砂を十分に洗わず、大量に使用してしまった背景がある。また、生コンの段階でちゃんとしたものであっても、ポンプ圧送する際に軟らかいコンクリートの方が圧送しやすいということで水を混ぜてしまい、軟らかく品質の悪いコンクリートが打設されるといったこともあったようだ。そのため、空隙が多くなって外部から空気や水が入り、鉄筋が腐食するといった劣化が非常に目立ってしまっている。本来、官庁や元請が十分に監督するはずが、建設ブームで人材が不足したことと、建設工事が元請・下請・孫請などで分業化され、責任の所在がハッキリしなくなってしまったことが大きな原因で、その結果、高度成長期に作られた構造物の方がそれよりもずっと昔に作られたものよりも劣化しているといった状況が生まれている。
また、当時はわからなかったが、アルカリ骨材反応を起こす反応性骨材を含む砕石が使用されるようになり、昭和58年頃に阪神高速道路でアルカリ骨材反応によるひび割れが発見された。広島でも調査すると、全国から見学者が来るほどいくらでも出てきた。土木構造物だけでなく建築ビルでも多く発見されており、全国的にも広島は非常に多い地域だ。
鈴木―土木コンクリート構造物が高齢化し、維持管理が重要になっている中、中国地方では時代的背景もあったようですが、全国的に見ても劣化構造物が非常に多いとのご意見でした。私達の課題は非常に重いものがあります。次にその辺に焦点を絞り、問題点や解決の糸口についてまずは川端さんにお願いします。
川端―やはり高度成長期に作られた構造物が老朽化し、予算も非常に限られた中でどのように維持管理していくか。これが最も大きな課題だ。その解決に向けて道路橋の予防保全に向けた有識者会議が約3年前に発足、提言がなされたのだが、その趣旨は、これまでの「見ない」、「見過ごし」、「先送り」を放置するのではなく、課題解決に取り組んでいこうというもの。
「見ない」の解決策では、点検について方法や頻度を含め制度化していくとしており、市町村も含めて全ての道路橋で点検をしていく。実は中国地方の橋梁の約9割は地方自治体管理のもので、これらの橋梁が健全に管理されなければ国民生活の安全・安心は担保できない。
「見過ごし」という点では、損傷を見過ごす危険性の高い遠方目視を改め、併せて本当に橋梁がどのような状態であるかを把握できる技術者の育成・情報伝達力の向上を図っていくこととしている。
また、「先送り」についてだが、アメリカは大規模な落橋事故を契機に道路構造物が永久・万能でないことを再認識し、維持管理予算を拡充させていった。必ずしも日本の現状に直結することではないが、予防保全に対する考え方を明確にし、必要な予算を確保できなければ「荒廃するアメリカ」の二の舞になりかねない。
私を含む道路部構造保全グループは的確な対応を支援する地方技術拠点として組織されており、直轄事務所、地方公共団体に対して点検・診断の技術的な助言、技術相談等の役割を担っている。具体的な取組みとしては、国、県、市町村を対象とした橋梁点検セミナーや各県単位での点検講習会のほか、困っている市町村の方へ座学・実技の実践講座も行っている。
また、実際に得られた点検データを有効活用するにはデータベースの構築とPDCAのマネジメントサイクルを確立することが重要である。
鈴木―約9割の橋梁が地方自治体管理という状況の中、川端さんの道路保全企画官というポストも市町村支援の動きの中から生まれたと聞いています。(独)土木研究所のCAESARも全国的な連携を図るものとみて良いのでしょうか。
川端―CAESAR(構造物メンテナンス研究センター)は、オールジャパンの道路橋の安全管理に関わる技術拠点として設立された。重篤な損傷があった場合には技術者を派遣して的確なアドバイスを行うもの。もちろん、橋梁保全委員の先生方にもお願いしている。我々に相談いただければ技術レベルに応じて対応させていただく。
鈴木―なるほど。既に支援制度はかなり整備されつつあるということですね。さて、米倉さんは各種委員会に参加され、様々な助言をされていると聞きます。その立場から、設計者・施工者に対するご意見を伺えますか。
米倉―国や県が主催する橋梁の保全委員会などで実際に劣化した構造物を見に行くと、「このような品質の悪いコンクリートをなぜ施工しなくてはならなかったのか」と胸が痛くなる。品質の良いコンクリートを施工していればいまの状況は全く変わっていた。表面から鉄筋に近い、かぶりの部分の品質が特に悪いことが問題で、海辺近くの塩分も中山間地域の凍結防止剤もコンクリートが密実ならばそれほど問題にはならなかったはずだ。
我が国には、既に15m以上の橋梁が約14万橋あり、今後の補修補強費はものすごいことになる。そのため、今後は品質の良いコンクリートを施工することが重要で、同時に湿潤養生を十分に行うことで寿命ははるかに伸びる。そのことによってミニマムメンテナンスが実現でき、補修補強費は大幅に削減できる。具体的には現在の橋梁等は水セメント比55%ほどで作られているが、50%以下で作るべき。特にかぶりの部分の密実性を上げるためには十分に湿潤養生して水和反応を起こさせ、密実なコンクリートとすることが必要だ。
鈴木―中国地方のコンクリートが置かれている悪い事情が反映している部分がありますね。次に、施工者の立場からの問題意識について、(社)コンクリートメンテナンス協会会長の徳納さんにお聞きします。
徳納―まず、協会について少し説明させていただくと、米倉さんのお話にもあったように広島は塩害・アルカリ骨材反応が非常に多い地域で、それに対応するべく約15年前に広島県コンクリートメンテナンス協会を立ち上げた。コンクリートメンテナンス協会は工法協会ではなく、専門業者が集うだけの協会でもない。コンクリート補修技術を勉強し、開発し、その時点でその構造物に提供できる一番良い材料と技術を提案してきた。最初は暗中模索だったが、広島発の我々の技術が広島県・市をはじめ国や島根・鳥取・山口・岡山県でも採用されるようになり、組織も一般社団法人化し、(社)コンクリートメンテナンス協会とした。
現状の問題点だが、入札制度において橋梁補修工事の規模は大きくなく、県の土木B、Cランクといったところだが、地域によっては補修の経験がある業者がほとんどなく、受注する側も下請も管理する側もよくわかっていないといったケースも多い。これは非常に大きな問題だと思う。「見過ごさない」という観点からも、この問題は徹底して対処しなければならない。
先日ある自治体担当者と話した際、「補修は材料がたくさんあってよくわからない」と言っていたが、材料から入ると絶対にわからない。劣化の原因や症状、対処方法について細分化していけば材料は限られてくるのだが、メーカーはとにかく材料を売りたがるので余計わからなくなる。今後は国交省が行っている施策ともタッグを組んで、正しい劣化の原因、補修工法、対策を真剣に考え、働きかけていくことが我々業界団体の使命だと思う。
また、診断士のレベル向上の観点からのお願いだが、コンクリート診断士の資格があることを入札条件に加えるなどインセンティブを検討していただければ、若い技術者の自信と意欲の向上にも繋がるのではないだろうか。
川端―自治体含めた全体的な技術者のレベルアップの必要性は我々も痛切に感じており、道路管理者の技術者として使いやすい図書を3種類にまとめている段階だ。1つは定期点検等の参考となる「橋梁点検の着眼点と留意事項」で、分散している資料・基準を1冊の図書にまとめた。また、点検から補修まで首尾一貫した技術力が必要ということで、「橋梁補修・補強の手引き」を現在作成中だ。さらに、維持管理で蓄積した知識を新設橋にフィードバックするための「新設橋梁の設計施工の留意事項」について皆さんに見ていただくべく取りまとめ中である。
鈴木―発注者・施工者ともに技術者を育成し、レベルを上げていくというのは非常に有難い話です。設計者の立場としても若手の育成は課題で、デスクワークだけでは技術者を育成できない分野であるのにデスクワークに忙殺され、なかなか育成が進まない悩ましい状況です。補修は材料から入ると難しいというお話がありましたが、まさにその通りで、実際のものを見てから材料に戻ってくることが大事です。また、中国整備局で作成中の「橋梁補修・補強の手引き」は、私も委員として作成に参画させていただきましたが、実にタイムリーな企画で内容のあるものとなっています。中国地方から発信し、全国で活用してもらうことが良いと思います。
徳納―それと、やはり設計する方にぜひ現場を見て欲しい。調査の時は行くが、補修の時にその材料を見ていないことが多いのが現状ではないだろうか。
鈴木―そうですね。私も後進に言っていることですが、現場を見るだけでもダメで、施工する人の話を良く聞くことが大切です。図面の上では作れるものでも実際の現場では無理がある場合もあります。実際の現場の苦労を聞き、設計に当たらなくてはと常々思っています。やはり共通してくるのは技術者育成です。
米倉―広島県コンクリート診断士会のサロンでも取り上げ、議論するとともに現場を見に行けば良いと思う。現場に行き、劣化のメカニズムを理解すれば対策は立てやすくなり、補修方法もおのずと見つかってくる。劣化の元を理解することはやはり重要。そのためには技術者の育成に努めなくては。
鈴木―ここで広島県コンクリート診断士会の状況と目的について、副会長で設立発起人でもある立場からご説明させていただきます。
広島県コンクリート診断士会はコンクリート診断士資格保有者を正会員、主旨に賛同いただける会社を賛助会員とし昨年7月に発足しました。現在正会員60名、賛助会員18社で広島県下の診断士資格保有者の約20%を集めています。会の一番の目的は若手技術者の育成です。発注者・施工者・設計者すべてで技術のレベルアップは重要で、意欲のある若手も増えていますが、独学・座学で向上するものではありません。そのため、現場の見学会や苦労話などを聞くサロンなど技術向上の場を提供するために設立しました。現在、島根県と鳥取県では既に設立され、山口県と岡山県でも設立の動きがあると聞きます。中国地方全体としてムードを高め、東京の(社)日本コンクリート診断士会とも連携しながら若手の育成に力を注いでいきたいですね。
さて、次に骨材事情に関する問題点にも触れていきたいと思います。米倉さんのお話にあったように、時代背景で仕方ない部分があったにせよ、我々は負の遺産を背負っている状況で、今後はそれを受け止め、プラスに変えていかなくてはなりません。その1つの切り口として、高性能AE減水剤があります。通常のAE減水剤よりも高い減水性能と良好なスランプ保持性能を備えているため、単位水量と水セメント比を変えず流動化コンクリートを得ることができるものですが、設計の立場からすれば阪神大震災以降のコンクリート構造物は鉄筋量が過密とも言えるほど多くなったことで施工はやりにくくなり、場合によっては欠陥コンクリートを生む要素にもなっています。そのため、高性能AE減水剤を用いて品質を管理することも有効であると考えます。
米倉―その通りだ。高性能AE減水剤を使用することで、単位水量を増大させることなく、これまでのスランプ8センチからもっと軟らかいスランプ12~18センチのコンクリートを打設できるようになっている。既に、土木学会「コンクリート標準示方書施工編」(平成19年制定)にも、コンクリート充填性を考えたスランプ値の選定が推奨されている。ただし、流動性が上がれば材料分離を起こしやすくなる。それを防ぐために微粒分の添加を認める方向にならなくてはならない。石の粉である微粒分は20%程度入れても非常に良いコンクリートができるが、石粉ではなく泥が混じる可能性があるとして、土木学会コンクリート標準示方書では75μm以下の微粒分は7%以下と想定しているため、現状ではなかなか進展していない。一方、中国地方整備局では12%まで微粒分を増大させてもよいとするMF(マイクロファイン)コンクリートの手引書を数年前に作成している。
高性能AE減水剤は日本で発明され、世界中に広まっている材料。積極的に使って微粒分を12%くらいまで増やし、ブリージング等の材料分離が少なく十分締め固めできるコンクリートとし、品質の良い構造物を作っていくべきだ。
鈴木―高性能AE減水剤の長所をご紹介いただき、私も同感ですが、一方で単価が1㎥あたり1000円ほど上がってしまうのが問題です。また、ひび割れが少ない膨張コンクリートも同様に価格面での課題を抱えており、総合評価落札方式など発注者側の取組みを含め、今後の展開を考えていきたいところです。
米倉―高性能AE減水剤はコストが高くなるということだが、それはあくまでイニシャルコストの話で、質の良いコンクリートを作れば長寿命化が図れるためライフサイクルコストは格段に下がり、トータルでは安くなるはず。水や空気の入らない密実なコンクリートはカビやコケが生えずいつまでも綺麗なままというメリットもある。
鈴木―今後はライフサイクルコストの面からも材料を考え、設計の段階から織り込んでいく必要があるということですね。
川端―我々も発注者として長寿命で信頼のできる構造物を目指していく。ご指摘のように単位水量の減少や養生方法をはじめとした施工方法の改善についても、様々な助言を得ながら検討していかなくてはならないと思う。
米倉―そのあたりは国交省としても随分考えていただいているようだ。また、ひび割れはコンクリートの空隙以上に深刻な問題で、ひび割れを防ぐのに、コンクリートの単位水量を大幅に少なくできる高性能AE減水剤が有効なのは先ほど話した通りだが、いくら配合が良くても現場での養生が良くなければひび割れは発生する。だが、温度応力によるひび割れは、コンクリート打設後数日以内に生じるので、湿潤養生を2週間ほど続けて、ひび割れ内が水で満たされていれば、水和反応が継続されてセメントゲルという硬い結晶がひび割れを充満し、修復してくれる。湿潤養生をしっかりと行うことが大事だ。
鈴木―ここまで、現状の問題点と解決の糸口という観点からお話をいただきましたが、やはり技術者の育成と技術開発の推進が急務というご意見でした。また。良質で費用負担の少ない維持管理技術が待望され、新規建設では新しい技術を導入し、コンクリートの品質向上に努めることも重要です。それでは、次のテーマに移り、将来に向けての今後の展望という観点から、まずアルカリ骨材反応に関する先進的な取組みを行われている徳納さんにお話いただきます。
徳納―私が補修に取り組んだ15年前、亜硝酸リチウムという薬剤に出会った。当時まだ対策工法がなかったアルカリ骨材反応に対し、構造物に塗ればイオン拡散で効果があるという話だったが、施工してみると1~2年で再劣化し、失敗に終わっていた。しかし、これは材料が悪いのではなく、施工方法に原因があることが分かり、物理的に穴を開けて亜硝酸リチウムを圧入する方法を思いついた。その後、実験を経て島根県、広島県や国交省の工事で採用され、施工してみたところ工期内にアルカリ骨材反応が止まるという結果が得られた。穴を開けたり圧をかけることはコストがかかるため、最初は採用される構造物が限られていたのだが、その後、機械の簡素化に成功したほか、雨にあたる梁などアルカリ骨材反応による劣化が顕著な部位のみに圧入するなどの改良が加えられ、現在では大幅なコストダウンに成功している。
ただ、これは1つの要素技術であり、劣化因子を入れない方法、取り除く方法、劣化した部分を直す方法など、状況にあわせて組み合わせていくことが有効であるし、そうすることで技術者育成にも繋がるのではないか。
協会活動としては発足時から広島市内で毎年フォーラムを行っており、最初は20~30人集まればという状態だったが、今年は300人。九州や東京でも300~400人もの人々に参加していただけるようになった。今は技術者が勉強したがっていると感じる。亜硝酸リチウム圧入工法にこだわらず、いろんな技術を全国に普及できればと考えている。喜べることではないが、中国地方は劣化のメッカ。中国地方の補修技術は非常に高いものがあると実感している。
米倉―アルカリ骨材反応の抑制だけでなく、亜硝酸リチウム内の亜硝酸は鉄筋腐食防止にも効き目があるため、ダブルで効果が期待できる。私としても非常に有効な工法として期待している。
鈴木―次に川端さん、中国地方整備局では昨年度から新技術活用促進説明会を開催され、徳納さんがご説明された亜硝酸リチウムのリハビリシリンダー工法をはじめ、様々な新技術をご紹介されていると聞きますが。
川端―橋梁保全技術は損傷原因や程度によって様々な工法があって新技術も出ているため、我々もどの技術が良いのか図りかねているのが現状だ。そこで、発注者・設計者やコンサルが一同に会し、開発者から説明を聞く場を設けようということで昨年度から行っている。昨年度は11技術、今年度は12技術が発表され、100名を超える方々に出席していただいた。
また、国交省肝煎りのNETIS(新技術活用システム)にはたくさんの技術が登録されている。「申請情報」と「評価情報」があるが、全ての技術が使われ評価されている訳ではない。それぞれの技術を使用する場合、どのような評価を受けたかを確かめてもらうことが第一で、評価のないものについては開発者の方によく話を聞いていただくことが重要だ。
鈴木―新しい技術の説明が受けられる場を設けていただけるのは我々にとっても有難いことです。また、今後期待している技術としては、目で確認できる調査技術が最近すごく進んできています。X線でコンクリートを透過する技術も進歩していますし、EPMA装置によるカラーマッピング分析では、塩害や中性化による塩分濃縮が色分けされて一目ででわかるシステムも登場しています。そのほか、直接穴を開けて胃カメラのようなスコープで内部を覗くものや、地盤の空洞探査の技術を応用し、車に積んで橋梁を走るだけで床版の腐食を検査できるというものも開発中です。このように、今後は安くてわかりやすい技術が次々に出てくることが期待され、明るい話題と言えると思います。
米倉―似たような話題では、センサーを用いてひび割れ補修前と補修後の振動の周期を測定し、判別する技術が広島大学で現在開発されており、今年から共同研究を行う予定となっている。これまではひび割れ補修を行っても定量的に評価することはできなかったが、この技術を土木構造物にも応用する取組みを行っていけば面白いのではないか。
鈴木―その他、新しい話題等の紹介がありましたらお願いします。
川端―国交省における来年度の道路構造物の長寿命化の取組みの中で、橋梁の予防保全は引き続き行うが、舗装の長寿命化ということで、耐久性に優れるコンクリート舗装を積極的に活用することが明記されている。沿道立地の少ない地方道などコンクリート舗装の方がアスファルトよりも有利な場面はあると思うし、わだち掘れがひどい交差点などはプレキャスト版で舗装することも考えられる。アスファルト舗装に比べて初期コストは高いが、ライフサイクルコストは抑えられる等の長所・短所もあり、ニュートラルな立場で比較検討が必要だ。今後はコンクリート舗装にも注目していただければ。
鈴木―ありがとうございます。さて、昨年10月、広島市内で最も古い橋である猿猴橋(大正15年)と島根県益田市の高角橋(昭和17年)が平成23年度土木学会選奨土木遺産に認定されました。このように中国地方にも古くて良いコンクリート構造物はたくさんあります。最後に今後の励みとして、そのような事例を紹介していただければと思います。
米倉―古くに作られたコンクリート構造物は実は長持ちしている。例えば旧帝国海軍が作った呉の石油備蓄タンクは現在でも使用されているものがあるし、宮島には日露戦争の際に作られた室浜砲台の基礎が未だ健全な状態で残っている。100年以上経過しているが、ちゃんとした施工をすればもつということ。
川端―今回土木遺産となった高角橋だが、島根県で唯一の5連コンクリートローゼ橋であり、古くても非常に美しい。しかもこの橋は60年前の高津川の大改修で1mの嵩上げが行われたが、そのような大改築を経てもいまだ健全だ。これは先人の方々が土木構造物に対して最新の注意を払い、入念に施工された証。高度成長期の構造物は大量生産という意味で価値はあったが、先人の考え方に原点回帰する必要があると思う。
鈴木―コンクリートはどんどん劣化していくものでなく、施工と維持管理さえしっかりしていれば強度を保てるという証明ですね。呉市安浦にある武智丸も戦時中に鉄がなくなり、コンクリートで作られた輸送船ですが、戦後は安浦漁港を守る防波堤としていまだに活躍しています。知恵を出して使えば色々な面で活用できるという好例だと思いますし、コンクリートに携わる方にはぜひ古くから大事に使われている構造物にも興味を持って欲しいものですね。
絹井―本日は貴重なお話をどうもありがとうございました。