てくのえっせい382②(平成30年8月号)電子版
コンクリート補修の新しい道
広島工業大学名誉教授 中山勝矢
人類は5千年も前から巨大な建造物を築いてきました。エジプトや中南米に見るピラミッド、ローマ時代の水道橋、中世の教会の高い尖塔、万里の長城等々です。
ピラミッドには、一つが2tもある自然石を300万個も積み上げたとあり、後には日干しレンガや焼成レンガによっても構造物が造られていますが、その量にはただ驚くばかりです。
聖書にあるバベルの塔では、天に至る野望から人を集めて工事を進めますが、湧き出る意見を纏められず、塔は完成しないで崩壊し終わります。こんな経験もあったのでしょう。
〇コンクリートの時代
今日でも未踏の分野に挑むとき、十分に時間をかけて検討を重ねても完璧な答えは容易に得られません。それで事故防止のため繰り返し定期検査や修理・補修が必要になります。
いまではビルでも橋でも、大型の構造物の多くは人造石のコンクリート製です。コンクリートは、砂と砂利にセメントを混ぜ、水を加えて練り、型に入れて放置しておくのです。
時間が経過するに従い、反応が進んで岩石に変わっていきます。圧縮に対しては優れているものの横ずれの力(せん断力)に弱いのが欠点で、内部に鉄筋を通しているわけです。
セメントは、石灰岩と粘土を混ぜて高温で焼き粉砕したものです。この研究は英国のジョセフ・アスプティンによって行われました。発明は1824年のことです。
これを通常「ポートランドセメント」と呼びますが、出来上がった人造石(コンクリート)が英国のポートランド地方産の石灰石によく似ていたからだといいます。
それはそれとしてセメントの科学は、今日でもまだ十分に解明されたとは言えません。その上、鉄筋を入れ、砂利や砂を加えてコンクリートにする場合にはなおさらです。
例えば、コンクリート製造の際に混入する砂に塩分が含まれていれば、鉄筋は腐食されて膨張し、コンクリートに亀裂が生じます。これは重大事故に繋がりかねません。
建築物や橋梁では、まず表面の塗装を除去し、化粧板があれば剥がして亀裂を見つけ出さねばなりません。すべてを目視で進めるのなら大変な作業量になり、今後の課題です。
〇コンクリートの補修作業
平成30(2018)年5月の第26回中国地域ニュービジネス協議会大賞表彰式で、大賞と中国経済産業局長賞は広島市の福徳技研㈱代表取締役徳納 剛氏に与えられました。
昭和41年に創立し、主に土木事業と宅地建築物取引業、さらには塗装業を営んできた企業です。いまは資本金21百万円、従業員20名とあり、決して大きくはありません。
それがここで、コンクリート構造物の塩害やアルカリシリカ反応のために起きるコンクリートの膨張を亜硝酸リチウム水溶液の注入で行う補修技術に成功しました。
従来行われてきた方法は、欠陥部や空隙をセメントペーストで埋め戻す程度でした。劣化の原因対策でないので、再劣化と補修の繰り返しとなり、経済的にも限界が出てきます。
この新技術は、コンクリートの発明以来約190年の歴史の中で画期的なことなのです。そしてこの方法によれば、コンクリート建造物の寿命は格段と延びるものと期待できます。
社長は、革新的なコンクリート補修技術を確立しても自社で独占せず、社会資本延命技術として普及したいと考えて、(社)コンクリートメンテナンス協会を立上げました。
この協会がいう「リハビリ工法」では、必要箇所に表面から小孔を既定の径で必要な深さまで掘り、ここから時間をかけて亜硝酸リチウム水溶液を圧入していきます。
圧入前に予め、コンクリート中の塩化物イオン・二酸化炭素等の量は調べてあり、それに合わせて防錆効果の高い亜硝酸リチウムの圧入量を決めているという説明でした。
(社)コンクリートメンテナンス協会の会員数増加に伴い、全国的に知られるようになり、国土交通省や各地の自治体での採用も増えているとのことですから、嬉しくなります。
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参考資料:
*1 ジェームズ・トレフィル著、出口敦訳:
「都市を考える科学 ビルはどこまで高くできるか」
(㈱翔泳社1994年)
福徳技研株式会社:
本社:〒730-0053広島市中区東千田町2-3-26
代表取締役: 徳納 剛(とくの たけし)